福島県立医科大学 脳神経外科学講座

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当科の特徴的な治療法

Characteristic

特定機能病院の脳神経外科として

 福島県立医科大学脳神経外科は、県内唯一の特定機能病院※1として、脳・神経疾患を幅広く診療しています。その内容は比較的よくみられる疾患(コモンディジーズ)から数万人に一人の希な疾患まで様々です。
 救急の患者さんにも24時間365日の対応を行っています。頭蓋底外科手術、神経内視鏡手術、脳血管内治療、てんかん・不随意運動・拘縮・痛みに対する機能的脳神経外科など専門性を要する疾患にも当科の専門医が対応します。
 私たちは、より専門性の高い高度先端医療を提供し、関連診療機関と交流を図りながら信頼される診療を確立するために、スタッフの全体的な知識・技術力の向上に努め、より安全な手術と治療成績の向上を目指しています。
 ※1 特定機能病院は、高度の医療の提供、高度の医療技術の開発及び高度の医療に関する研修を実施する能力等を備えた病院として、第二次医療法改正において平成5年から制度化され、2022年12月現在で88病院が承認されています。

脳神経血管内治療

● 概要
 脳神経血管内治療は、血管の内腔に細い管(カテーテル)を病変のある部位まで挿入して、血管の中から治療を行う治療方法です。カテーテルなどの操作は血管撮影装置を使用してレントゲン透視下に行います。カテーテルなどの医療機器、血管撮影装置などの診療機器の進歩により、脳神経血管内治療を行うことができる疾患が年々増えています。
 福島県立医科大学附属病院では、通常の血管造影室に加えハイブリッド手術室(手術室内に血管撮影装置を併設)を併用しています。ハイブリッド手術室では複雑な治療がより安全に実施可能であり、脳神経血管内治療と外科手術を組み合わせる場合もあります。また外科手術に際して使用する術中神経モニタリングを脳神経血管内治療に導入し、治療中に生じうる合併症の検知に活用しています。
 福島県立医科大学脳神経外科学講座では、侵襲の低い治療を行うとともに、その効果と安全性を保つことを最重視して診療に取り組んでいます。


● 治療の対象となる主な疾患
 ・脳動脈瘤(破裂、未破裂)
 ・脳または脊髄動静脈奇形
 ・脳または脊髄硬膜動静脈瘻
 ・頭蓋内動脈または頚動脈狭窄
 ・脳梗塞(脳動脈急性閉塞)


● 当科の特徴的な治療法
 福島県立医科大学附属病院は特定機能病院であることから、複数の基礎疾患を有する方、治療が難しいと診断された方などが受診する機会が多くあります。そのため脳神経外科学講座では、特に以下の疾患に対する診療に力を入れて取り組んでいます。

»» 難治性脳動脈瘤
 脳動脈瘤は部位、大きさ、形状などで治療の難しさが異なります。脳神経血管内治療では、塞栓用コイル(動脈瘤内を塞栓する器具)、ステント(筒状の形状をした編み込み形状の器具)を使用して、動脈瘤内部に血流が入らないように治療します(動脈瘤塞栓術)。
 しかし通常行う動脈瘤塞栓術や外科手術(開頭クリッピング術など)での治療が難しい場合があります。
特に大型の内頚動脈瘤で部位的に外科手術での到達が難しい場合は、脳神経血管内治療が選択されますが、動脈瘤塞栓術で根治することが難しい場合が多いです。この場合は、内頚動脈内腔にフローダイバーター(網目の細かいステント、脳動脈瘤への血液の流れ込みを減らす効果がある)を留置します(図1)。脳動脈瘤内腔の血流が減り、経過とともに血栓化すると脳動脈瘤が閉塞し治癒に至ります。

»» 動静脈奇形、硬膜動静脈瘻などの稀少疾患
 脳または脊髄における脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻は、病気になる患者さんの数が少なく稀少疾患に該当します。治療方法は、外科手術、放射線治療、脳神経血管内治療と複数あり、疾患の状態によってこれらの治療方法を組み合わせて行います。
 脳神経血管内治療は、動静脈奇形、硬膜動静脈瘻の本体およびそれに向かう血管を塞栓物質で閉塞します。特に液体塞栓物質(Onyx、NBCA)はその効果が高いため、積極的に使用しています(図2)。
治療手技だけでなく全体を見据えた治療方針など診療に経験を要する疾患でありますが、それに該当する治療経験を有すると自負しています。

»» 脳主幹動脈急性閉塞による脳梗塞
 脳を栄養する血管の中でも幹となる太い血管(脳主幹動脈)が急に血栓(血液の固まり)などで閉塞した場合、そのままでは短時間で脳梗塞に至ります。脳梗塞は運動麻痺などの後遺症が残り、発症前の生活に戻ることができなくなります。
 脳神経血管内治療では、カテーテルなどの器具を用いて詰まった血栓を取り除き、脳への血流を元に戻す治療です(血栓回収療法)(図3)。
 発症から血栓回収療法までに要する時間を短くするため、病院内の診療体制を整えており承認を得ています(日本脳卒中学会 一次脳卒中センター施設コア)。また近隣の施設から血栓回収療法を目的とした患者搬送も受け入れ、地域医療の連携を推進しています。

機能的脳神経外科

● 概要
 機能的脳神経外科とは、薬では治すことができない不随意運動(パーキンソン病、振戦など)、てんかん、痛み、痙縮など、脳の機能的な異常を外科的に治療する分野です。これらの治療には脳機能の正確な同定が必要ですが、画像診断とコンピュータシステムの進歩により、現在では種々の脳機能部位を極めて精細に判定して治療することが可能です。また、近い将来コンピュータシステムがさらに発展し、再生医療も実現が予測されることから、機能的神経外科分野は今後も大きな発展が期待されています。  当科では、既に健康保険の適応となっている機能的神経外科全般にわたり治療が可能です。実験的治療や研究のための治療ではなく、保険診療の範囲で治療を行います。一部に高額な治療も含まれますが、身体障害者手帳2級以上をお持ちの方や、パーキンソン病等で特定疾患を受けられている方など、費用の自己負担が殆どありません。 具体的には以下の治療を行っています。

»» 難治性てんかん
 薬物治療を2種類以上、2年以上行っても年に1〜2回以上の全身性痙攣を起こす場合には外科的治療を考慮します。特に側頭葉てんかん、MRIで病変が確認できる難治性てんかんの患者様は根治的外科治療のよい適応になります。術後には、7〜8割以上の発作軽減または消失が期待でき、薬剤の減量や中止も可能となります。
 根治的な外科手術が適応とならない場合でも、当科では緩和的手術方法を施行することが可能です。緩和的外科治療には、脳梁離断術や迷走神経刺激療法があり、てんかん発作を概ね5割以上少なくすることが可能です。また行動異常や精神状態の改善が見込めます。
 これらの手術の適応や治療方法を決めるために、当院では心身医療科、神経内科、小児科とも定期的に検討会を開催し、密に連絡をとっています。必要により長時間ビデオ脳波測定、硬膜下電極留置、PET検査なども施行して、安全で確実な手術ができる様にしています。
緩和的な迷走神経刺激療法 緩和的な迷走神経刺激療法 緩和的な迷走神経刺激療法

»» 痙縮治療
 脳卒中や脊髄損傷の後には、少なくとも半数以上の方が、麻痺している手足が固まってしまう病態になります。これを専門用語では痙縮や拘縮と呼びます。関節が固まってしまった完全な拘縮では、整形外科的な治療の追加が必要となる事もあります。しかし、現在ではボツリヌスの施注療法、髄腔内へのバクロフェン持続注入治療、微小神経切除術を痙縮や拘縮の状況にあわせて行うことにより、多くの方で症状改善が得られます。痙縮が改善するにより、疼痛の緩和、着衣の改善、歩行の改善など生活面で多くの効果が期待できます。
 また、痙性斜頸などの局所的なジストニアでお困りの方も是非ご相談下さい。
髄腔内バクロフェン持続注入療法

»» 難治性の慢性疼痛
 当科では麻酔科を主体としたペインクリニック外来部門とも協力して、三叉神経痛、脳卒中後の慢性疼痛、癌性疼痛に対して外科治療を行っています。
 特に硬膜外刺激療法は局所麻酔でも施行可能である安全な方法で、脊髄を硬膜外から刺激して慢性的な痛みを半分以下にすることが可能です。また三叉神経痛、舌咽神経痛、顔面痙攣に関しては、安全・確実な神経血管減圧術を行っています。
硬膜外刺激療法

■■■ 気軽にご相談ください ■■■

 残念ながら、県内を含めて東北地方では機能的神経外科は余り周知されていません。上記に紹介させて頂いた治療方法以外にも、日進月歩で治療はすすんでおり、安全性もどんどん改良されています。
 患者さま、ご家族の方、更には地域の先生、治療の対象になるかもしれないと思われましたら、是非とも気軽に受診をご相談下さい。

<機能的神経外科問い合わせ先>
脳神経外科外来受付 024-547-1222(月〜金の平日午前9時から午後3時)
毎週月曜日に機能的外科外来診療を行っています。

覚醒下手術(awake surgery)と術中MRI(準備中)

侵襲の少ない神経内視鏡手術(準備中)

頭蓋底外科手技を用いた高難易度手術(準備中)

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